大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和40年(ヒ)9号 決定 1965年4月05日

申立人 同和紙工株式会社代表取締役 田殿吉治

相手方 粟倉重

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

本件申立の趣旨ならびに理由は別紙申立書記載のとおりであつて、その主張の会社整理手続開始の申立(当庁昭和四〇年(ヒ)第八号)がなされていることは当裁判所に顕著なところでありかつその主張の強制執行手続がその主張の段階まで進行中であることは一件記録上明らかである。

本件申立は如何なる規定を根拠とする趣旨であるか必ずしも明らかではないけれども、結局整理手続開始の申立があればその開始命令前でも既存の強制執行の停止が許容されることを前提としている。

しかしながら、未だ開始命令前の浮動的状態において債権者の正当な権利行使がその直接関知しない事情により一方的に阻害されるに拘らず、特にこれを許容した会社更生法第三七条の如き規定が存しないことは、会社整理においては右強制執行の中止等の処分は認められたいところと解するのが相当である。右両手続の趣旨目的が共通であるとしても、そのことから直ちにこれが準用ないし類推され得るものとは考え難い。

もつとも商法第三八六条第一項第一号において、整理開始の命令のあつたときにおいて必要と認めるときは裁判所は「会社の業務の制限その他会社財産の保全処分」をすることができるとされ、その第二項で、整理開始前でも右第一項第一号の処分をなすことを認めている。しかし、右保全処分は直接第三者に対しその権利を制限することまでも認めているか否か疑問の存するところであるが、少くとも既存の保全処分や強制執行の中止を許すものとはいい難い。すなわち、開始命令があれば既存の強制執行等は同法第三八三条第二項によつて当然中止されるわけであるから、さらに保全処分による中止を考える余地はなく、従つて右第三八六条第一項第一号の「保全処分」はかかる強制執行等の中止の処分に触れていないものと解されるところ、開始命令前の処分を規定する右同第二項ではこの点に特段配慮することなく右の第一号を単純に引用しているにすぎないことからみると、右第二項の場合も同じく強制執行等の中止をなんら考慮していないもの、換言すれば特に保全処分としてこれを認めたものではないと思料される。

なお、和議については和議法第二〇条第一項の、破産については破産法第一五五条の保全処分によつて、それぞれ和議開始前、破産宣告前においても、本件のように既存の強制執行の中止を命じ得るか否かについて見解が分かれているが、かりにこの点に関する積極説に従うとしても、整理については前記のような商法第三八六条第一項第一号、同第二項の規定の形式に照らすと、これをもつて右和議法等と同様には論じられない。

要するに、会社整理においてはその開始命令前には強制執行を中止することはできないものとみるほかはないから、本件申立はこの点においてすでに理由がないものといわなければならない。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 山之内一夫)

別紙

申立の趣旨

本件相手方である債権者粟倉重が本件申立人が代表取締役である同和紙工株式会社を債務者として京都地方法務局所属公証人大野一雄作成に係る第五三四一一号手形債務履行契約公正証書の執行力ある正本に基づいて別紙目録<省略>記載の物件に対して為したる強制執行を中止する。

との御裁判を求める。

申立の理由

一、相手方は、申立趣旨記載の債務名義に基づいて昭和四〇年三月二三日別紙目録記載の本件申立人が代表取締役である同和紙工株式会社所有の有体動産に対して差押をなし、その競売期日は来る四月六日と指定された。

二、而して前記同和紙工株式会社に対しては目下御庁に対し会社整理手続開始の申立がなされ、御庁昭和四〇年(ヒ)第八号事件として目下手続進行中のところ、前記債務名義により差押へられた物件は同会社の営業用物件である重要なる機械器具一切である、従つて、右強制執行を続行するときは、一部債権者のみ利得せしめる結果となり会社整理の目的は到底達成することができない。

三、よつて会社財産の保全を期する為、申立趣旨記載の裁判を求めるべく、茲に本申立に及んだものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例